睡眠負債とは?日常生活への影響や解消のポイントを紹介
『睡眠負債』は近年注目を集めている眠りに関する悩みの一つです。「最近疲れがとれない」「寝ても眠い」と感じるのであれば、睡眠負債の可能性があるかもしれません。睡眠負債の基礎知識や日常への影響、解消のポイントをチェックしましょう。
睡眠負債とは
睡眠負債は『慢性的な睡眠不足状態』を指しています。まずは睡眠負債の基本的な知識をチェックしましょう。
睡眠研究所長が使い始めた概念
睡眠負債は世界初の睡眠研究所『スタンフォード大学睡眠研究所』初代所長ウィリアム・C・デメント教授が提唱した概念です。
睡眠負債は睡眠不足が借金のように蓄積されることで、慢性的な睡眠不足状態に陥り、心や体に影響を及ぼす可能性がある状態を指すといわれます。通常の睡眠不足との大きな違いは『自覚症状の差』でしょう。
通常の睡眠不足であれば、眠気を感じると「眠い」「寝足りない」と睡眠不足を補おうとします。一方、睡眠負債の場合は無自覚のうちに睡眠不足状態が続いてしまうため、気づかぬうちに『眠りの借金』が貯まってしまうといわれているのです。
流行語大賞にもノミネート
睡眠負債は2017年の『ユーキャン新語・流行語大賞』にノミネートされたことでも注目を集めました。流行語大賞はその年の出来事や世相を表すもの、話題となった言葉などを選ぶ賞です。
流行語大賞として30語がノミネートされたなか、睡眠負債はトップテンに選出されています。なお、2017年の流行語大賞では『インスタ映え』『忖度』が年間対象を受賞、『35億』「Jアラート」などがトップテンに選出されました。
忙しい現代を生きる日本人は、睡眠不足に悩ませる人も少なくないでしょう。睡眠負債という言葉が注目を集めたのは、睡眠の大切さや睡眠不足の問題に対する意識が高まった結果なのかもしれません。
データでみる睡眠
睡眠は私たちの生活に当たり前のように存在しています。普段「なんとなく睡眠をとっている」という人も多いのではないでしょうか?ここでは睡眠に対する意識を高めるためにも、データで睡眠を見ていきましょう。
日本人の平均睡眠時間
厚生労働省が平成27年に発表した『国民健康・栄養調査』内『睡眠の状況』によると、日本人の1日あたりの平均睡眠時間は『6時間以上7時間未満』が最も多い結果でした。
同調査にて「睡眠で休養が十分にとれていない」と回答した者は21.7%です。平成21年は19.4%、平成24年は16.3%、平成26年は21.7%、平成28年は20.9%、平成29年は21.9%、平成30年は23.4%と、年を重ねるごとに睡眠が足りていない人の数は増加傾向にあることもわかりました。
この結果からみるに日本人の多くは、睡眠による休養をとれていない人が多いと考えられます。「自分は大丈夫」と慢心することなく、睡眠へ気を配る意識を持つことが大事です。
1日の平均睡眠時間は6時間以上7時間未満の割合が最も高く、男性34.5%、女性34.7%である。6時間未満の者の割合は、男性36.1%、女性39.6%であり、性・年齢階級別にみると、男性の30~50歳代、女性の40~60歳代では4割を超えている。
引用:平成27年『国民健康・栄養調査』の結果
不眠とタイプ別の割合
製薬会社MSDが実施した『不眠に関する意識と実態調査』によると、調査対象者のなかで不眠症の疑いがある人は38.1%、不眠症の疑いが少しある人は18.4%でした。
一般的に不眠症は、寝つきが悪い・夜中に何度も目が覚めてしまう・眠りが浅い・寝ても睡眠不足を感じるなど『十分に眠れない状態』を指すと考えられています。
このなかでも夜中に目が覚めてしまうタイプの人の割合が多いそうです。とくに高齢者は年齢とともに体力が低下することで、睡眠時間が短くなったという人も少なくありません。
また、年齢とともに腰や背中の痛み、夜間のトイレの悩みが関係して、睡眠時間に影響がでてしまうこともあるそうです。
世界共通の不眠症判定法「アテネ不眠尺度(以下、AIS)※」を用いて、不眠症の疑いの有無を確認した結果、「不眠症の疑いなし」は38.9%で、「不眠症の疑いあり」は38.1%と全体の約4割を占め、「不眠症の疑い少しあり」は18.4%でした。
引用:『不眠に関する意識と実態調査』
睡眠不足によるデメリット
睡眠不足を解消できない状態が続いてしまうと、私たちの体にはさまざまなデメリットが生じるといわれています。主なデメリットを三つ解説します。
集中力や記憶力への影響
睡眠不足状態が続くと脳の働きが通常時よりも悪くなりやすく、集中力や記憶力が一時的に低下する可能性があることは知っておかなければなりません。
集中力や記憶力が低下してしまうことで、他人の話が頭に入らない、アイデアやクリエイティブな発想が生まれない、大事な約束や締め切りを忘れるといった状態に悪循環に陥ることもあるでしょう。
睡眠時間を削ることで日中の活動時間を増やせるかもしれませんが、本来のパフォーマンスを発揮できず、仕事やプライベートで歯がゆい思いをすることもあるかもしれません。
いつでも万全の状態を保つためにも、適度な睡眠時間を確保するようにしましょう。
コミュニケーションへの影響
睡眠不足が影響してコミュニケーションに支障が出ることも少なくありません。
睡眠が足りない状態が続くと判断力や共感力が低下する可能性があります。普段なら相手の行動や表情から気持ちを想像することができますが、寝不足の状態になると共感しにくくなるそうです。
結果として相手の気持ちを思いやることができない・自分の感情をコントロールできないといった状態に陥り、人間関係におけるトラブルが発生することもあるかもしれません。
自分の気持ちに余裕がないことで、不安やイライラなどのマイナスな感情を抱くこともあるといわれています。友人やパートナーとの関係を大切に思うのであれば、睡眠不足によるコミュニケーションへの影響も心に留めておきたいものです。
新陳代謝や自己肯定感への影響
きちんと睡眠をとっている人と比べると、睡眠時間が足りていない人は新陳代謝や自己肯定感が低下しやすい傾向にあるといわれています。
新陳代謝は体の中の古いものを新しいものへ入れ替わる作用を指しており、低下することで髪の生え変わりや肌のターンオーバーなどに影響を及ぼす可能性があるそうです。加えて新陳代謝は私たちの健康と密接にかかわっているため、低下することで健康への悪影響も懸念されます。
さらに、睡眠が不足すると心や体が十分な休養をとれません。ストレスが溜まりやすくなり、気持ちが落ち込みやすくなることもあるでしょう。
睡眠負債が疑われる症状
睡眠負債に陥っている人の多くは自覚症状がないといわれています。自分で気付けない可能性があるからこそ、疑いを少しでも感じたら早期の対策が必要です。睡眠負債が疑われる主な症状を見ていきましょう。
午前中に眠くなる
午前中でも眠気を感じる・目が覚めない感覚があるのであれば、睡眠負債が疑われるかもしれません。
通常であれば起床から約3~4時間で脳の働きが活発になるといわれています。例えば朝8時に起床した場合は、11時から12時には目が覚めていてもおかしくない時間帯です。
それにも関わらず午前中も眠気を感じるのであれば、睡眠時間が足りていない可能性が考えられるでしょう。
なお、昼食後や午後は副交感神経系が優位になることで、体がリラックス状態になりやすいといわれています。これにより眠気を感じやすくなる人もいますが、基本的には問題ないと考えてよいでしょう。
少しの時間でも眠ってしまう
気づいたらデスクで居眠りしていた、電車や車で移動している最中に寝ていたなど、少しの時間で眠ってしまうのは睡眠負債の兆候の一つといわれています。
仕事先のデスクや電車のなかで居眠りしてしまう場合はまだしも、自分が車を運転しているときにウトウトするようになったら注意が必要です。
自分の眠気をコントロールできないまま車を運転することで、事故を起こしてしまう危険性があることは留意しておかなければなりません。少しでも眠気を感じたら運転を避ける、仮眠をとるようにするなど対策をとることが大切です。
布団に入ったらすぐに寝てしまう
布団に入ったら寝落ちるようになった場合も、睡眠負債を疑う必要があります。
「布団ですぐ寝るのは当たり前」「寝つきがよいだけ」と感じるかもしれません。しかし、睡眠時間が足りている人は、布団に入ってから通常10~30分は起きていられるものです。
布団に入った瞬間、寝落ちるように眠りにつくのは、睡眠時間が不足している証拠ともいえます。とはいえ眠りにつくまでの時間は人によって異なります。
一つの兆候だけで判断せず、そのほかの兆候の有無も合わせて総合的に判断するとよいでしょう。
睡眠負債の原因とは
睡眠不足はいくつかの原因で引き起こされます。ここではとくに気をつけたい三つのポイントを見ていきましょう。
単純な寝不足
シンプルに寝不足であることが睡眠負債の原因になっていることがあります。忙しさに追われるまま睡眠時間を削ってしまうと、慢性的な寝不足状態に陥りかねません。
「6時間は寝ているから大丈夫」という人でも、実は睡眠時間が足りていなかったり眠りが浅かったりすることが関係して、気づかぬうちに寝不足になっていることもあるのです。
適切な睡眠時間は人によって異なります。睡眠時間の長い短いで判断するのではなく、質の高い睡眠をとれているかどうかを重視する必要があるでしょう。
夜勤などによる生活リズムの乱れ
仕事がシフト制で夜勤がある・繁忙期に徹夜することがあるなど、生活リズムの乱れが睡眠負債の原因となっていることもあります。
人間が夜になると自然と眠くなるのは『体内時計』の働きによるものです。体内時計が生活リズムを調整することで、私たちは日中に活動し夜間に休むようにできているのです。
しかし、生活リズムが乱れると体内時計も乱れてしまい、睡眠に影響を及ぼす可能性があるといわれています。
日中睡眠時間をとっているにも関わらず「寝た気がしない」と感じる人もいるかもしれません。日中は体温が上昇しやすく、これにより睡眠時間のや質の低下につながることもあるそうです。
不眠症や睡眠時無呼吸症候群などの病気
『不眠症』や『睡眠時無呼吸症候群』などの睡眠に関する病気が睡眠負債の原因となるケースも考えられます。
不眠症は睡眠障害の一つです。誰でも一度や二度は「眠れない」と悩んだ経験もあるかと思いますが、不眠症は眠れない状態が数カ月単位で続くといわれています。
睡眠時無呼吸症候群は、寝ている最中に無呼吸状態になってしまう病気です。寝ている間に症状があらわれることで、気づかないうちに症状が進行、さまざまな不調を引き起こすこともあるといわれています。
睡眠負債の返し方はコツコツしかない?
負債には『借りをつくること』という意味があるように、睡眠負債を解消するためには、睡眠不足を『返済(解消)』する必要があります。しかし、睡眠負債は一度に返すことは難しいといわれているのです。
寝だめでは返済が難しい
平日に十分な睡眠時間を確保できない人は、休日に『寝だめ』をすることで睡眠不足を返済しようと考えるかもしれません。
もしくは寝られる日にたくさん寝ることで、睡眠不足にならないように『睡眠貯金』をしようと考える人もいるでしょう。しかし、寝だめや睡眠貯金は睡眠負債の返済効果はあまり期待できないといわれています。
例えば休日に寝だめをすると、その日の夜は眠れなくなり就寝時間がズレる可能性が高いでしょう。それ以降の寝つきが悪くなることにつながり、結果として寝不足になる=睡眠負債の本質的な解決にはならないと考えられています。
毎日少しずつ増やすこと
睡眠負債は雪だるま式に不調が増えていきます。睡眠不足を貯めこまないように、なるべく早期のうちに返済することが大事です。とはいえ一度に返済することは難しいため、足りない睡眠時間を『分割返済』することを目指しましょう。
おすすめは『普段の睡眠時間+1時間の睡眠時間を増やす』方法です。少しずつ睡眠時間を増やすことで、慢性的な睡眠不足状態を解消へ導きましょう。
就寝時間を延ばすことが難しい場合は、日中の仮眠時間を適度に取ることもおすすめです。ただし、日中の睡眠は就寝時の寝つきを悪くすることもあるため、長くとも1~2時間に留めましょう。
最低限コアタイムは決める
生活リズムを整えるためにも起床・就寝時間は一定であることが理想ですが、難しい場合は最低限コアタイムを決めておくとよいでしょう。
普段の生活スケジュールを振り返り『必ず寝ることができる時間』を見つけます。例えば深夜1~5時まではコアタイムとして、平日・休日問わずできる限りこの時間帯は眠れるようにしておきましょう。
「健康のために」と無理に早寝早起きをする必要はありません。自分のライフスタイルに合わせて無理のない睡眠時間を確保しましょう。
睡眠負債解消のポイント
睡眠負債を解消に導くためには、睡眠時間を増やすことがなりよりも大切だといわれています。ここでは睡眠時間を増やすためのポイントをチェックしていきましょう。
環境を整える
しっかりと睡眠をとるためには、睡眠環境を整えることも大切です。例えば体に合わない寝具を使用していると、寝つきの悪さにつながるといわれています。寝つきや寝心地の悪さが気になる人は、マットレスや枕など普段使っている寝具を見直してみましょう。
また、季節によって快適な就寝温度は異なります。暑さが厳しい夏場は扇風機を足元で回す・ひんやりとした使い心地の寝具を使う、寒さが厳しい冬場は湯たんぽを使用する・保湿や保温に優れた寝具を使うなど対策しましょう。
食事や入浴は早めに済ませる
睡眠の質を高めるためにも、食事と入浴は早めに済ませておきましょう。
就寝前に食事をとると胃腸が消化のために働くことで、良質な睡眠を妨げてしまう可能性があります。遅くとも3時間前には済ませておくようにしましょう。
人間は体温が下がると眠くなる性質があります。就寝前に入浴で体を温めると、眠る手助けになるでしょう。入浴直後は体が温まりすぎるため、入浴は就寝時間の1時間前までに済ませることがおすすめです。
入浴温度は39~40℃のぬるめがよいといわれています。好みの香りの入浴剤を使用すると、リラックス効果が高まるでしょう。
寝る前のNG行動を避ける
就寝前にはいくつかの避けたい行動があります。
例えば就寝前にパソコン・スマートフォン・TVなどを見ていると、脳が興奮状態になり、眠気が落ち着いてしまうといわれているのです。心地よい眠りを迎えるためにも、遅くとも就寝30分前には電源を切っておきましょう。
また、コーヒーやお茶に含まれるカフェイン・タバコに含まれるニコチン・ビール・ワインに含まれるアルコールは、睡眠の妨げになるといわれています。寝る前はできるだけ避けるようにしましょう。
ストレス発散と昼寝の活用
スムーズに眠りにつくためには、体をリラックスした状態にすることが理想とされています。リラックスする方法はいくつかありますが、おすすめは『リラックスできる香り』と『昼寝』を活用することです。
香りのなかでも『ラベンダー』はリラックスやストレス解消効果が期待できるといわれています。睡眠時にお香やアロマを焚くことで、眠りにつく手助けをしてくれるかもしれません。
30分~1時間程度の適度な昼寝は睡眠負債の解消に有効といわれています。移動時間や休憩時間などを利用して、上手に昼寝をとってみてはいかがでしょうか?
まとめ
睡眠負債は水面下で症状が進むこともあります。「自分は大丈夫」と慢心することなく、普段から睡眠不足に陥らないように努めましょう。
また、寝だめは睡眠負債の本質的な解決になりません。寝不足を感じたときは、適度に昼寝をする・普段の睡眠時間を増やすなどの対策をしましょう。