不眠の原因別のツボ(百会・失眠・安眠・神門)の押し方
不眠は、放置すると心身にさまざまな不調が生じる可能性があります。快眠のために、自分で気軽にできるケアの一つが『ツボ押し』です。頭から足先までの数箇所に、睡眠に関するツボがあります。眠りに関する三つのツボと押し方を紹介しましょう。
不眠について知ろう
不眠は、さまざまなものが影響して引き起こされる症状です。悩みや緊張などの心のトラブルや病気や薬などが要因となる体のトラブル、環境の変化に適応しきれずに起こる場合もあります。
不眠が進行すると、長期間にわたって不調に悩まされる『不眠症』も懸念されるでしょう。不眠症とは何か、どれくらいの人が悩んでいるのかについてまずは概要を説明します。
不眠症の基準とは
「眠りたいけれど眠れない」という経験は、多くの人が一度や二度はしたことがあるのではないでしょうか?体調や疲れ具合よって寝つきが悪くなる日もあるものですが、睡眠トラブルが慢性的に続くようであれば要注意です。
『厚生労働省』の基準では、夜間の不眠が1カ月以上の長期間続き、日常生活や社会生活に悪影響を及ぼすような心身の不調が見られる場合は不眠症と判断します。日中にだるさや集中力の低下、食欲不振などが主な症状です。
「1. 長期間にわたり夜間の不眠が続き」「2. 日中に精神や身体の不調を自覚して生活の質が低下する」、このふたつが認められたとき不眠症と診断されます。
不眠症 | e-ヘルスネット(厚生労働省)
不眠の症状とは
不眠症には、大きく分けて四つの症状があります。
- 横になってから入眠するまでに時間がかかる『入眠障害』
- 朝まで寝続けられずに途中で目が覚める『中途覚醒』
- 起床予定時間よりもずっと早い時間に目覚めてしまう『早朝覚醒』
- 睡眠時間は十分とっているにもかかわらず倦怠感が残る『熟眠障害』
四つの症状は一つだけに当てはまるとは限りません。ときにいくつも重複して表れることがあります。たとえば、中途覚醒や早朝覚醒は、睡眠のリズムが変化して夜間の眠りが浅くなりやすい高齢者によく見られる症状です。
とはいえ『症状を苦痛に感じるかどうか』は、個人差があります。症状がみられるからといって、必ずしも不眠だと断定できるわけではないことは念頭に置きましょう。心配であれば自己判断せず、専門家へ相談することがおすすめです。
睡眠の悩みを抱える人は少なくない
睡眠について何かしらのトラブルを抱えている人は増加傾向にあります。2018年の厚生労働省の調査によると、回答者となった20~70歳以上の男女のうち「1カ月間睡眠で休養がとれていない」と回答した人の割合は約2割に上りました。
さらに、1日の平均睡眠時間について「6時間未満」と回答した人は、男女ともに4割近くとなる結果が出たのです。もちろん、必要な睡眠時間は個人によって差がありますが、不眠症が誰にでもなりうる身近な病気であるという見方もできます。
ここ1ヶ月間、睡眠で休養が十分にとれていない者の割合は 21.7%であり、平成 21 年からの推移でみると、有意に増加している。
平成30年国民健康・栄養調査結果の概要
6時間未満の者の割合は、男性 36.1%、女性 39.6%
平成30年国民健康・栄養調査結果の概要
眠れないときはツボ押しを試してみる
不眠に悩んでいる人の中には「いきなり専門家に相談したり、睡眠薬に頼ったりすることに抵抗がある」という人もいるのではないでしょうか?
質のよい睡眠をとるために、自分でできる方法はいくつかあります。なかでも『ツボ押し』は、特別な道具も必要なく気軽に行えることがメリットです。
ここでは、眠れないときに試したいツボ押しについて基本的な知識を説明します。なお、不眠の症状でつらい場合は、我慢せずに早めに医療機関に行くことをおすすめします。
ツボ押しは東洋医学の一種
ツボ押しとは、東洋医学の概念の一つである『気血(エネルギー)』とその通り道である『経絡(けいらく)』を利用したものです。ツボは気血が通る経絡の要所に点在し、全身に約360個もあるとされています。
経絡はそれぞれ臓器や筋肉などにつながっており、ツボを刺激することで該当する器官の血流をよくしたり、調子を整えたりできるという考え方です。
1カ所のツボ押しによって、複数の部分に好影響を与える可能性もあるでしょう。たとえば、東洋医学において肝臓はストレスで不調を起こし、すぐ上の位置にある心臓にも悪影響を及ぼすとされています。ツボ押しによって肝臓の調子を整えられれば、心臓にとってもプラスとなるのです。
ツボ押しと睡眠の関係
不眠のときにツボ押しがよいとされている理由は、臓器の不調を緩和したり、血液循環をよくして体温を上げたりできると考えられているためです。
眠る前のツボ押しによって血液の循環力が高まると、細胞の新陳代謝が活性化します。代謝によって体温が上がれば、その後徐々に体温が下がってくるタイミングでスムーズな眠りへとつなげられるでしょう。
人間は、体内の『深部体温』を下げることで、体を休息モードへ切り替えていきます。体温の低下とともに眠気が発生するため、眠る前にツボ押しを試してみるのもよいでしょう。
また、ツボ自体に「快眠につながる」と考えられているものがいくつもあります。強く押すほど効果があるものではないため、心地よさを感じる範囲内で数十回刺激しましょう。ただし、飲酒時や体調の悪いときは刺激になるため避けるのが賢明です。
興奮状態にある人は百会
ツボは、場所によってさまざまな名前が付けられています。両耳を結んだ線と、鼻から後頭部を結んだ線が重なった頭のてっぺんにあるツボが『百会(ひゃくえ)』です。
『百(の経絡が)会(する)』という名の通り、複数の経絡とつながっています。「理由がわからないけれど、なんとなくソワソワして眠れない」というときは、まずはこのツボから試してみてはいかがでしょうか?
百会の押し方
まずは、両耳を結んだ線と鼻から後頭部を結んだ線の交点を見つけましょう。触るとわずかに窪んでいることがわかります。
両手の中指を重ねるか、親指を曲げて第一関節の硬い部分でグッと押し込みましょう。最初は約30秒垂直に押し、次に中心から放射線状に5~10cm場所をずらして押して痛みを感じる方向を探します。
最初は鈍い痛みがありますが、上手く押せていれば徐々に痛みが軽くなるでしょう。3~5分を目安に続けることがおすすめです。
眠ることにプレッシャーを感じない
不眠を何とか解消しようと焦ってしまうと、緊張感が高まりますます眠りにくくなってしまいます。「早く寝なければ」と目をつぶっても、逆に目が冴えてしまうという経験は多くの人が持っているのではないでしょうか?
「眠らなくてはならない」というプレッシャーは、活動時に優位となる『交感神経』を活発化させ、睡眠時に優位となる『副交感神経』を抑えてしまいます。
スムーズな入眠には、リラックスした状態が欠かせません。いったん眠ることから気持ちを遠ざけて、気持ちを落ち着けてみましょう。一度寝床から離れても大丈夫です。
ストレスを感じている人はかかとの失眠
かかとにある『失眠(しつみん)』も、神経を落ち着かせるツボとして有名です。「ストレスを抱えて気が立ってしまい、目が冴えて眠れない」という人は試してみるとよいでしょう。
ほかにも下半身の冷えやひざ関節痛、むくみや神経症にもアプローチできるとされています。冷えによる血行不良が不眠に関係することもあるため、気になる人は試してみましょう。
失眠の押し方
失眠はかかとにあり、やや押しにくいかもしれません。ツボ押しを行う際には、安定した椅子に座るか、寝転がった状態で行うことをおすすめします。
片足を持ち上げて片手で支え、空いた手を握ってこぶしで失眠を叩きましょう。かかとの中央めがけて、軽く叩くだけで大丈夫です。
もっとじんわりと刺激したい場合は、両手の親指で失眠を約20秒ぐっと押して刺激しましょう。手軽に行いたい場合は、座ってかかとの下にゴルフボールなどを置き、ぐりぐりと転がすやり方でも十分な刺激を与えられます。
覚醒状態をできるだけやわらげる
翌日に重要な仕事を控えていたり、大切な約束があったりすると、不安や緊張から交感神経が働き、寝る前であっても『覚醒状態』が続きます。数日の不眠であればすぐに回復することも多いですが、1カ月以上不眠が続く際にはいったん状況を見直しましょう。
睡眠不足により判断力や集中力が低下しているところへ、私生活や仕事でトラブルが起きると新しいストレス源が生まれます。緊張状態から抜け出せず、ますます眠れなくなる『負のスパイラル』が起こるかもしれません。
ストレス下でも、心身の休息をとるために睡眠が必要です。副交感神経は、交感神経の覚醒状態のように短期間で切り替えられるものではありません。就寝前はなるべく穏やかに過ごし、スムーズに入眠できるように心がけましょう。
夜型タイプや過労の人は耳の下の安眠
首筋の近くにあるのは『安眠(あんみん)』のツボです。耳たぶの後ろを探ると下向きに出っ張った骨があります。骨の先端から手の指の幅1本分下に位置するため、手で探りながら見つけましょう。
名前が表すように睡眠不足の際にツボ押しするとよいとされています。ツボを触ってコリを感じたり痛みがあったりすれば、気づかないうちに不調を抱えているかもしれません。
仕事による疲労やストレスが溜まっているのに、あまり眠れていない人は試してみましょう。
安眠の押し方
安眠を押すときには、両手の親指か中指で約6秒間ゆっくりと圧力をかけます。左右それぞれ5~10回行いましょう。痛みがあれば無理をせず、さすったり骨をなでたりするイメージでマッサージします。
入浴時には、適温のシャワーを2~3分当てて刺激することもおすすめです。目の疲れや肩こり・頭痛の際にもアプローチできると考えられているため、デスクワーク中心の仕事に携わっている人は試してみてはいかがでしょうか?
夜型タイプはリズムを意識する
夜型タイプの人は、『体内時計のリズム』を整えることを意識するとよいでしょう。『起床時間をなるべく規則正しくする』ことで、1日の体のリズムが生まれます。
人間の体は朝起きて太陽の光を浴びると、体内時計がリセットする仕組みです。約12~14時間後には、睡眠を促す『メラトニン』というホルモンが分泌されます。
なかなか眠れない夜に強い光の照明やスマホ・PCの操作をしていると、脳が「活動する時間だ」と勘違いして、メラトニンの分泌を抑制してしまう可能性があるでしょう。
夜の覚醒状態は体内時計のズレにつながり、朝起きることがつらくなる原因になり得ます。夜が来れば、自然と眠りたくなる体へ整えることを目指しましょう。
過労の人はかくれ不眠の可能性も
過剰な労働で睡眠時間が削られ、不眠を患っている人は多くいます。特に、不眠症と断定できるほどの重症は見られないものの、自分の睡眠に不満を抱えている『かくれ不眠』は自覚しにくいぶん厄介です。
かくれ不眠とは、短期間かつ軽い不眠の症状があり日常生活に影響を感じているものの、「大したことはない」と放置しているか不眠と気づいていない状態を指します。
人によって必要な睡眠時間には個人差がありますが、残業や休日出勤が多く休息に充てる時間が少ない自覚がある人は注意が必要です。なかなか寝つけず、眠っても深く十分な睡眠がとれない人は早めの対策を講じましょう。
虚弱体質や体力が落ちている人は手首の神門
手のひらと手首の境界線上にある小指寄りの窪みは『神門(しんもん)』と呼ばれるツボです。不眠のほか、動悸や便秘にも関係するツボといわれています。
心臓や血液のほか、『神(の)門』という名前が示すように精神に関わるツボとしても知られている場所です。もともと虚弱体質の人や体力が低下している人は、心身の両方から働きかけるツボを試してみましょう。
神門の押し方
左右どちらかの神門の位置を確認したら、空いた手の親指で約6秒間指圧しましょう。心地よい痛みを感じる程度の強さで、6秒間×10~30回押します。片手の神門をツボ押しし終わったら、もう片方の手も同じように刺激しましょう。
ポイントは、6秒間の押し方です。最初の3秒で押し込むように徐々に力を入れいき、残りの3秒間でゆっくりと力を抜いていきましょう。
眠るための体力を養う
睡眠時、体は修復や回復に集中していると思いがちですが、実はカロリーが消費されています。睡眠にあたって体内では眠気を引き起こすメラトニンや細胞の代謝を促す成長ホルモンなど分泌されており、必要なホルモンが働くためのエネルギーが使われているのです。
睡眠状態を保つためには、ある程度の体力が必要とされています。虚弱体質や低血圧を抱えている人、日常生活で疲れ切っている人は質の良い睡眠がとりにくい傾向です。また、加齢による体力低下でも、深い眠りの状態を保ちにくく浅い眠りになるとされています。
「運動するのもキツイ」と感じる場合は、夕方にゆっくり散歩するだけでも大丈夫です。筋力を使えば体温が一時的に上昇し、その後の下降で眠気が発生する可能性があります。
まとめ
ツボ押しは、1人でも気軽かつ簡単にできます。体のケアとともに、気持ちを落ち着かせるルーティーンとして取り入れやすい手段です。
「不眠症をどうにかしたいと考えているものの、すぐに生活習慣は変えられない」という人は、試してみてはいかがでしょうか?快眠に役立つツボを覚え、少しでも質のよい睡眠をとることを目指しましょう。